photo by 岡崎伸一
PROFILE
竹久 侑 Yuu Takehisa
1976年大阪生まれ
水戸芸術館現代美術センター学芸員
現在、水戸に来て3年目。
ようやく水戸の町になじめてきた気分。
好きなこと、ヨガ、猫、飲むこと。
最近、白川昌生著「美術・記憶・生」に深く共鳴。
出会いが導いた美術への世界
広義で「編集」を考えれば、作家を研究、作品を厳選し展覧会というひとつの場を作り出す美術館のキュレーターも同様の要素をもった業種と言える。今年で創立20周年を迎えた水戸芸術館。その現代美術センターでキュレーターとして活躍する竹久侑さんにお話をうかがった。
もともと竹久さんは、現代美術のキュレーターを目指していた訳ではない。中・高校生の頃は、放送部に所属。映像やラジオ番組を制作したり、趣味で写真撮影をする等、ものづくりに興味はあったものの、美術とは無縁の生活を送っていた。その後、進学した大学も学問横断的なジェネラリストを育てる学部だったため、美術とは直接関連がない授業がほとんど。そんな中、写真への興味が転機をもたらした。放送部に所属していた流れで行っていた放送作家のアシスタント。その作家が手掛ける番組にゲストで来ていた写真家・伊島薫さんとの出会いが、竹久さんを次なるステージへと導く。
当時、伊島さんは写真集「死体のある20の風景"Landscape withacorpse"」を発表したばかり。その本を見たドイツの画廊から展覧会のオファーがきていた。作家活動のマネージャーがいなかったこともあり、英語が喋れる竹久さんに声がかかる。「いきなり派遣されたのがドイツのケルンだったんです。右も左もわからないまま作家の代理として打ち合わせなどをがむしゃらにこなしました。」
そこで感じたのは、確かに存在するアートシーン。アートが社会の中で認められ、ギャラリストやキュレーターという仕事がきちんと確立している世界だった。それまで画廊巡りもした事がなかったが、現代美術を意識しはじめるきっかけになった。23歳の夏だった。
写真から現代美術へ広がる企画の世界
仕事を通して海外のアートシーンに触れる中で、現代美術への情熱は日増しに強くなっていった。26歳の時、一念発起してキュレーションを学びにロンドンのゴールドスミス・カレッジへ留学。この学校のプログラムは展覧会の企画から助成金の申請、アーティストとの交渉、ギャラリーとの調整など、すべて一人で行うという実践的な内容。竹久さんは見事完遂し、修了展として初の展覧会をロンドンで開催した。
「自分で考えた企画展が実現でき、人に見てもらえたことで自信につながりました。また、コンセプトをしっかり作り込まなければ、アートが社会の中で機能しないことも経験できましたね。」
その後竹久さんは、2年間ロンドンの画廊で働きながら、二つ目の企画展を開催するなど、精力的に活動した。
そのままロンドンにとどまる選択肢もあったが、自分がどこで何をすべきかを考え、日本に帰国。以前より憧れていた水戸芸術館へと着地した。
キュレーターの仕事は「編集」の要素を多分に含んでいる。ギャラリーや各地のアートプロジェクトに足繁く通い、作家・作品を調査。作風や社会情勢、シーンに合わせ展覧会企画を立案する。準備から開催まで1年以上と長いプロセスだが、やることは多く深い。単なるイベントではなく、考え抜かれた企画が必要なのだ。更に世界的に注目される水戸芸術館の場合、プレッシャーも相当あるだろう。しかし竹久さんは「やりがいのある仕事」と語る。
昨年は街中展示カフェ・イン・水戸2008の企画運営にたずさわった。現在は来年2月に開催される自身の企画展の準備中。また、街中でのプロジェクトを仕掛けることにも意欲的だ。
「美術館と街中ではできることが全く違うし、最終的な見せ方や意味合いも変わってくると思うんです。それぞれの特性を十分意識して活かし、総合的に人々へアプローチできればと思う。私自身、社会や人ときっちりつながっている作品やプロジェクトに興味がある。アートが人と人をつなぐきっかけや覚醒、思索を生むこと。その面白さが私にとっての原動力です。」作家と観者をつなぐだけでなく、新しい価値を作り出すキュレーターの仕事。企画の意図を想像しながら観ることで、新しい展覧会の一面が見えてくるはずだ。
1.大学生時代は、写真のスキルを活かして出版社でのアルバイトも。編集者としての経験も持つ。
2.所属する水戸芸術館現代美術センターは、世界に誇る現代美術館。様々な企画展でアートを世界に発信している。
1.ガイ・ベンナー スティーリング・ビューティ 2007
作家のベンナーが家族で演じる、実際の家具のショールームを舞台にしたホームドラマ風映像作品。ユーモアなストーリーの奥に、社会や政治に関するイスラエル人作家の考えが見え隠れする重層構造が秀逸。去年、「日常の喜び」展で日本初紹介。
2.フェリックス・ゴンザレス=トレス 無題(偽薬)1991
ラッピングされたキャンディを床に四角形に敷き詰めたインスタレーション。このキャンディは取って食べていい。「見る」という鑑賞者の作品に対する関わり方を崩して、新たな関係性を提示。水戸芸術館では1997年「しなやかな共生」で紹介。
3.矢口克信 和心団(ワシントン)2008〜
去年の「カフェ・イン・水戸2008」で日本初紹介の茨城県出身若手作家。使われていなかった家を昭和の情緒ただよう小料理喫茶に変貌させ、近所の人々が寄りあう場づくりを目指して、今も不定期営業中。http://www.washingtown.jp彼の旺盛な活動は「クリテリオム」で改めて紹介された。
※冊子にて紹介していた「リフレクション」展の参考図版は著作権の関係上割愛。詳しくはホームページをご覧下さい。
水戸芸術館
〒310-0063 茨城県水戸市五軒町1-6-8
Tel.029-227-8111
http://www.arttowermito.or.jp